アラ還でも、恋をしていいですか?

「静香(しずか)!」
「あら、敬一」

突然、敬一くんの声で彼女の名前が呼ばれた。
そろそろ来る頃合いだったけど、なんてタイミングだろう。

よほど急いでいたのか、敬一くんは珍しく髪とスーツが乱れ、息を切らせてる。


(敬一くん…名前で呼んでる……やっぱり……恋人なのね…)

男性が女性の名前を呼び捨てだなんて、身内かよほど親しい間柄にしかしないはず。だから彼女は敬一くんの恋人。それを認めた瞬間、ズキズキと胸が痛むけど。自分に嫉妬する権利はないんだ、と言い聞かせる。

敬一くんは微かに怒気を孕んだ声で彼女を詰問する。

「あら、じゃない!なんで君がここにいるんだ!?」
「当たり前でしょう。年甲斐もない痛いおばあちゃんにはきちんと現実を教えてあげてただけよ」
「現実?君が、ぼくの恋人とかの妄言を、か?」

キッ、と敬一くんは静香さんへ非難するような視線を向けた。

「あら、現実でしょう?あなたとアタシは幼なじみで、周りには当然結婚するって思われてた。あなたのさゆりお母様も健一お祖父様も、認めていたじゃない」

幼なじみ……しかも、お母様も健一兄ちゃんまで知って認められていた公認の仲。なら、私なんか余計出る幕が無い。それ以上痴話喧嘩なんて聞きたくなくて、そそくさと立ち去ろうと思ったのに。

いつの間にか、敬一くんに腕を掴まれてた。

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