アラ還でも、恋をしていいですか?
「……菜園に行ってきます」
居間にいた夫に声を掛けても、反応がない。ソファに座った彼は、スマホに夢中だ。おそらく女関係だろう。昔からそうだった。
ほう、と息をついて玄関を出る。
今日は暑くなりそうだから、しっかりと麦わら帽子を被りほっかむりをする。年期の入った割烹着にゴム長履き。もんぺ。両手には軍手。
家から徒歩数分で着ける先には、菜園があった。
近所の地主さんが空いた農地を貸してくれているのだ。猫の額ほどの狭い場所しか借りていないけれど、今の私の唯一の趣味で自由になれる時間。
65で定年退職した夫が家にいる息苦しさに耐えられず、野菜が高いから自分で作り節約するためと誤魔化して借りた。
「ふう……草取りも楽じゃないわね」
ひと通り作業が終わり、隣に生える木の木陰で休む。他の近所の人たちはわりに朝早く作業しに来るから、私はだいたいそれが終わった時間帯を狙って来る。人付き合いも苦手だし、話題も特にないから話しかけられるのも苦痛だ。