アラ還でも、恋をしていいですか?
反撃
案の定憤った章は椅子から立ち上がり、出ていこうとしたけれど。敬一くんの一言で足を止めた。
「いいんですか?このまま放置すれば証拠をA社に提供しますし…それに、銀行からの借金はどう返済するおつもりで?」
「借金…?」
初めて耳にする言葉に私がおうむ返しで呟くと、敬一くんは頷いた。
「章さんはこの自宅を担保に、銀行から1000万を借り入れてらっしゃるんです」
そんな大金、見たことがない。結婚してから、私に渡される生活費は毎月10万もなかった。その中からなんとかやりくりして、老後の貯金もして…と頑張っていたのに。
「神崎 小夜(かんざき さよ)さんに、貢いだんですよね?」
敬一くんが指摘すると、章はビクッと肩を揺らした。
「な…なんの証拠があって」
まだ虚勢を張る章だけれど、声が震えてる。
敬一くんは封筒から一枚の紙を出してテーブルに置いた。
「この土地の登記事項証明書です。この権利部乙区、1。A銀行の名前で抵当権設定登記されてますよね?」
ペラペラの薄い紙だけど、確かに抵当権設定とA銀行の名前と1000万の金額が記されていた。
「そういえば…小夜さん、確か2軒目の料理屋を出すって話してたわ。よほど儲かってるから…って思ったら、じいちゃんが貢いだんだ…」
静香さんがますます侮蔑的な目で見遣ると、逆上した章は怒鳴り散らした。
「無関係なやつらがどうこう言うな!この家も土地も、すべておれのものだ。どうしようがおれの勝手だろう!!」