アラ還でも、恋をしていいですか?
(いい天気……こんなふうに雲一つない快晴だったわね、私が島を出たのは)
昭和40年代。高度成長期だった日本はまだまだ働き手が足りず、中卒で働くのが当たり前だった。
ことに、地方の人口が千人にも満たない島に就職先はなく、中学を出た私は集団就職で愛知県に来た。
後に国内屈指の工業圏になる土地だけあり、働き手はいくらいても足りない状況。田舎に置いた家族のため、がむしゃらに働いた。
1歳下の妹を本県の高校に進学させるため、私はおしゃれも遊びも諦めて生活を切り詰め、給料の大半を仕送りした。おかげで妹は短大まで行き、保母さんになった。そこは頑張ったと自負してる。
でも、もともと仲がよく無かった妹とは彼女の結婚式後それっきり。年を取った両親は娘2人を嫁がせ安心したか、その後相次いで亡くなった。
(私が章と結婚した時、涙を流して喜んでたっけ…)
“とくに能がないあんたがあんな立派なひとにもらっていただけたんだ。逆らわずよく尽くす良妻賢母になりなさいよ”
親も心配するくらい、私には何も無かった。容姿も平凡以下、頭も悪く不器用で慌てん坊…秀でたものは何一つない。
だから、出逢ってからずっと不思議だった。一流大卒のエリートサラリーマンが、なぜ私を選んだのか、と。