アラ還でも、恋をしていいですか?
もともと、章と知り合ったのも職場の世話好きな寮母のおばさんの紹介だった。
まだ結婚なんて考えられなかったけど、一度会ってみなさい、と強引に勧められて断りきれず、当時20歳になったばかりの私は、25になっていた章と渋々会った。
なるほど、確かに章は背も高く彫りの深い顔立ちでスーツをビシッと着こなして、これは女性から好かれるな、と疎い私でもわかるくらい。会ったのは職場近くの喫茶店。慣れない私はオレンジジュース。彼はブラックコーヒーで、銀色の灰皿にくわえたタバコを置く様も大人びて見えた。
なにを話したか、なんて緊張して憶えてない。憶えていたのは、やたら汗をかいて手が震えてたことだけ。きっととんちんかんなやり取りをしただろうに、章はなぜか“また、会いましょう”と言った。
そして、2度目も同じ調子だったのに、“結婚を前提にお付き合いしてください”ーーと言われて。あとはとんとん拍子に決まって。
世間一般で言う“デート”もろくにしないうちに、結婚をしてしまった。