アラ還でも、恋をしていいですか?

実感がわかなかった。
ろくに知りもしない男性と、紹介されて1年後に結婚するなんて。

中卒で世間知らずの私は、大卒でエリートの夫が言うことを聞くしかない。
夫の希望で結婚をきっかけに仕事を辞め、専業主婦になってからが大変だった。
夫が望む良妻賢母を絵に描いたような生活を求められ、何もかも知らなかった私は本を読み必死で覚えようとした。

家庭にいるなら当たり前、と常に完璧を求められた。失敗すると詰られ、なぜできないのか自省を求められ改善方法を自分で見つけろ、と言われる。

1日に何十回も繰り返し、ため息をつかれる度に自分が自分でなくなって、取るに足りないつまらない人間と思うようにさえなっていく。

(私が悪いんだ…だから章は呆れて……)

必死に努力した。神経質なくらいあちこち磨き上げ、料理も彼の好み通りに作り、快適に過ごせるよう心を砕き、冠婚葬祭や近所付き合い等も頑張った。

……なのに。

結婚後1年も経たず、章は浮気をした。

当時、私は初めての妊娠で体調が悪かったのに。買い物から帰った私を迎えたのは、居間で重なり合う章と見知らぬ女の裸で。

ショックで逃げ出した私は玄関で転び、全身を強く打ち付け……

初めての子どもは、生まれることなく天へ帰った。

< 8 / 60 >

この作品をシェア

pagetop