捨てられ聖女サアラは第二の人生を謳歌する~幼女になってしまった私がチートな薬師になるまで~
「わたくしと貴女だけの秘密にしておきましょう」

「おばあさま?」

「貴女はその力で誰かを助けられる人になってね」

 布団の中で首を傾げると、そう在ることを願っていると優しく頭を撫でられる。
 本当はどうしてと問いかけたかった。

(どうしてひみつなのですか? どうしてお父さまにはなしてはいけないのですか?)

 けれどそう告げる祖母は悲しそうで、問いかければ困らせてしまうことは幼くても理解できた。祖母に望まれるいい子でいたくてサアラは疑問を呑みこむ。

「わかりました。サアラ、約束します」

 聞き分けのいいサアラに安心した祖母は今度こそ本当の笑顔を見せてくれた。
 祖母の表情は老齢でありながら美しく、サアラを虜にした。齢六十近いというけれど、未だに祖母の魅力が衰えることはない。そんなところが誰からも頼られる理由なのだろう。サアラは強い憧れを抱いた。
 誰かを助けるというのは簡単なことではないけれど、そうすることで敬愛する祖母のようになれるというなら努力したい。そうすればまたこうして頭を撫でてもらえるだろう。この時間がサアラにとってなによりの幸せだった。

 けれど幸せは長くは続かない。祖母がこの世を去ったのは、それから一月も経っていなかった。

『貴女はその力で誰かを助けられる人になりなさい』

 大好きだった祖母の教えは今もサアラの胸に残っている。
 サアラは祖母からたくさんのことを教えられた。貴族としての矜持。社交界での振る舞い方。早すぎる別れだったけれど、大好きな祖母に恥じることのない人間でありたいとサアラの心を形作っている。

(おばあさまはつよい人だった。いつまでも泣いていたらあきれてしまう!)

 祖母が自分に望んでいたのは強くあることだ。
 そうして部屋でふさぎ込んでいたサアラは顔を上げる。しかし祖母を喪った屋敷はみるみる変化していった。
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