捨てられ聖女サアラは第二の人生を謳歌する~幼女になってしまった私がチートな薬師になるまで~
 祖母が気に入っていると話していたカーテンは消え、飾られていた美術品は全て新しいものへと変えられた。祖母が使っていた部屋には鍵がかけられ、ソニアの名を口にすることは禁じられてしまった。破ろうものなら厳しい罰が与えられる。サアラでさえ大声で怒鳴られたものだ。

「二度とその名を口にするな! いいか、わかったか!」

 一方的に言葉を遮られたサアラは頷くしかなかった。肌を差すような怒りは今思い出しても怖ろしい。
 父は以前よりも家にいる時間が減り、サアラの前でも控えることなく酒を煽るようになった。使用人に声を荒げる姿を何度目にしただろう。厳しい顔つきをしているせいで使用人から苦手とされていた人だが、それでも表立って怒りを露わにすることはなかった。それなのに不満があるのなら辞めてしまえと怒鳴る父のせいで何人もの使用人が姿を消していった。
 その際「ソニア様なら」という言葉が父の耳に入ろうものなら屋敷が悲鳴をあげる。いくつもの美しい食器が父の手で破壊され、美しかった家具には傷がつけられた。
 これは使用人たちが話していたことだが、父グランツと祖母の仲はあまり良くなかったらしい。特に父は幼い頃からなにかと優秀な祖母と比較され、その度に反発していたそうだ。記憶を探ってみると確かにふたりが会話をしている姿をほとんど目にしたことがなかった。

(おばあさまがいなくなってお屋敷はかわってしまった。お父さまも……。これからどうなってしまうの?)

 変わっていく屋敷と父が怖ろしい。それはサアラだけでなく使用人の誰もが感じていたことだろう。けれど当主に逆らえる人間はいなかった。
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