しづき


すると、それまでじっと話を聞いてくれていた白が、そっと胸板から私を離した。



まっすぐ見つめられる。



何を考えているか分からない。
けれど、恐怖などの感情は湧かなくて。



「…白?」



呼べばすぐ手を取られる。左手。



白の唇が向かう先は薬指。



瞼を閉じて、誓うようなキスをした。



「……っ」



白のことを綺麗だと思うことは多くあっても、「かっこいい」と思うことはあまりなかった。
日々の変態さが勝っているから。



なのに、なぜだろう。



辛い記憶から私を守るようなキスに、心が内側から震えた。



すごく、かっこよかった。




「…正直、怒りでどーにかなりそう」



こぼされたのは、聞いたこともないような低い声。


< 112 / 312 >

この作品をシェア

pagetop