しづき





「なんで汐月が疲れてんの?」


「自分の胸に訊いてみてください」



ふたり、縦並びでバスチェアに座り、私は白に髪を洗ってもらっていた。



「かゆいところはございませんかー」

「……ございません」



わしゃわしゃと泡を立てられる。



手つきが優しくて心地良かった。



シャンプーが目に入らないようにまぶたを閉じる。



「気持ちいい?」


「まぁ…はい」


「終わったらぼくと交換こね」


「わかりました」



交換こ、か。



何気ないやりとり。



真っ暗なまぶたの下には、幼い頃のおぼろげな記憶が浮かんでくる。


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