しづき
『おとうさん、しづきの髪終わったら、こんどは私がおとうさんの髪の毛わしゃわしゃするね!』
『そうか?じゃあお願いしようかな』
『うん!ピカピカにしてあげる!』
『ははっ、ピカピカは勘弁してほしいな。ほら前向いて』
大きな手で、ちょっと荒っぽい手つきで私の髪を洗うお父さん。
シャンプーが目に入らないように毎回注意してくれるのが恒例みたいになっていて。
今となっては良い思い出だ。
私なんかに関心のひとつも示さなくなった、お父さんとの数少ない思い出。
よく一緒にお風呂入ったっけ…
「汐月、泡流すね。
ちゃんと目閉じてるんだよ?」
「はーい」
なんだか懐かしい言葉。
シャワーの熱が全身に広がる。
私の髪を梳くように泡を流していく白の手つきが、お父さんとそっくりだった。
「じゃー汐月、ぼくの髪よろしくね」
「はい…」
私の髪を洗い終え、座る位置を交換した。
大きな背中が、忘れかけていた記憶をどうしても色づかせてくる。