しづき


いつも笑いかけてくれたお父さん。

今はどの国にいるんだろう。


いつかまた…優しく笑ってくれるかな。




──笑い合える日がくるのかな。





「し、汐月?!」



気づけば、目の前の背中に抱きついていた。



ぎゅっと隙間なく体を密着させて。



どうしても…温もりを感じたかった。



懐かしい記憶を逃がしたくなかった。



「し、汐月…どーしたの?」



焦ったような白の声。



だけど私の腕を振りほどこうとはしない。



優しい、やさしいんだ。



「ごめんなさい…
いろいろ思い出しちゃって」


「そ、そーなの?」



うわずっているその声に笑ってしまう。



お父さんとはぜんぜん違う。
甘くてやわらかい声。



だけど、どこか似ている。


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