しづき






それから、数時間ほど経った頃だろうか。



扉が開かれる音がした。



白が帰ってきたようだ。




──ザッ、ザッ


足音がこちらに向かってくる。



変だと思った。
まるで足を引きずっているような、不規則な足音。



そして






「し…づき」






掠れ声とともに
ドサリとその体が倒れ込んできた。



「し、白?!」



予想外のことに、おもわず体を起こす。



灯りを消しているから暗くて何も見えない。



だけどその代わり、石けんの匂いと

──鉄臭い匂いが鼻をついた。



これは…なに?



原因不明の鳥肌に襲われた。



「しづき…」



考える間もなく、白の体が覆いかぶさってくる。



ポタリと頬に落ちてくる液体。



鉄の匂いが深まった。



もしかして───血?




「し、白、なにをしたの?!」

「しづき…しづき……」




ひたすら私の名前を呼ぶ白。



正気ではないことがうかがえた。



「白、落ち着いて…っ」


「しづき…ぼく、やってきたよ」


「な、にを…?」



刹那、服の中に手を入れられた。



冷たい手のひらに膨らみを揉みしだかれる。



「んっ、白…やぁっ」


「やってきた…ぼくの汐月に
また、近づこうと…あいつを…」



何を言っているの?



あいつって誰のこと?


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