しづき


「汐月はもう気づいてるかもしれないけど…」

「………」




「ぼく、汐月のストーカーなんだよね」




「え?」



予想とは全然違う話題に拍子抜けしてしまった。



いやなかなか際どいことはたしかなんだけども。





「汐月を好きになったのは2年前。
死にたくてたまらなかったぼくは、ゾンビみたいにそこら辺を徘徊してたんだよね」


「ゾ、ゾンビ…」


「そんな時、同じ制服を着た男女に石を投げられてる、見るからにいじめられてそーな女の子を見かけたんだ」




思い出すように、白の目が愛おしげに細められる。




「されるがままのその子。やり返せばいーのにって思ったんだけど、その子はただ歯を食いしばってた。そしていじめっ子たちがいなくなって、一人きりになったとき、その子ははじめて涙を流した」


「……」


「それがね…すごくかっこよく見えた。
死にたいだなんて思って自暴自棄になってるぼく自身が小さく感じるほど。その子…汐月は強くて、儚くて、美しくて。一瞬で恋に落とされた」



白は少し恥ずかしそうに眉を下げて
「単純でしょ?」と言った。



正直驚いた。
なにもできず耐えることしかできなかった私を、そんなふうに見る人がいたなんて。



「白は…死にたいと思っていたんですか?」


「うん。よく覚えてないけど、きっと死に場所を探していた気がする。孤独で苦しくて」



おそろいだね、と白は笑った。



この男は恋に落ちた瞬間は鮮明に覚えているらしい。



ほんとう…なんなの。


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