しづき
「でもまあ…今はもう一人じゃないね。
ぼくには汐月がいて、汐月にはぼくがいる」
「…そうですね」
「汐月だいすき」
「唐突すぎます」
「ははっ」
子どものように笑うと、当たり前のように私を抱き寄せた。
その腕の中はやっぱり温かかった。
「ねぇ、ストーカーの白さん」
「なんですか、ぼくの汐月ちゃん」
うまく言い返されてムッとする。
頬を膨らませていると、ふと、以前私を助けに来た男に教えてもらったあることが頭に浮かんだ。
「白、なんか、絵描いてくださいよ」
「絵?」
「はい。白は料理も上手だし器用だから…。絵も上手いんじゃないかなって」
なんて、それっぽい理由を並べてみる。
本当はいつかの侵入者に白の前職が画家だということを教わったから…なんだけど。
そんなことをカミングアウトしたら白はきっと怒り狂って、あの男の気遣いも、今の幸せも台無しになってしまう。
慎重に、慎重に。
すると、意外にも白は乗り気になってくれたらしく、その体を起こした。
「いーね。楽しそう。
汐月の似顔絵でも描いてみよっか」
「ブサイクに描いたら許しませんからね」
「だいじょーぶ。かわいー汐月にそんなことするわけないでしょ」
そう言って、白はどこからか紙とペンを取り出した。