しづき







「しーづき」



甘い声に起こされる。



耳に慣れきった呼びかけに、まぶたが自然と開いた。



あいかわらず綺麗な顔がすぐ近くにあった。



起き上がれば、唇にキスを落とされる。



「ちょっ、朝から」


「おはよー汐月」



ニッコニコの白に、続けようと思っていた言葉が引っ込んでしまう。



「お、おはようございます」


「ふふ、今日もかわいーね」




意味もなく大きな手のひらに撫でられる。



…ううん。
この手のひらには、きっと意味があった。




「はいこれ、着替え」



差し出されたのは、ずいぶん久しぶりに見た私の制服だった。



「これ…」


「ずっと大切に保管しておいたから汚れてないよ。荷物は車に積んでおいたから」



淡々とされる説明に、本当にここから出るのだと、ようやく実感する。



私は…元の世界に帰るんだ。



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