しづき
階段をのぼって、1階へ出る。
視線の先には玄関。
何度も通った廊下は少し長く感じた。
「先行ってエンジンかけとくね」
「あ、はい」
白はササッと靴を履いて、ひと足先に出ていってしまった。
私も用意されているピカピカに磨かれたローファーに踵を沈める。
鎖で雁字搦めだったあの頃の面影はない、スッキリとしたドアノブに手を掛けて
一度だけ振り返る。
短い間、私を閉じ込めた建物。
「さようなら」
私は、今度こそ本当に鳥籠の中から
飛び立った。