しづき







車から降りれば
視界に広がるのは懐かしの河川敷。





「あっつい…」



蒸し蒸しとする空気に汗が滲み出てくる。



蝉の声が、朝だというのに元気よく鳴り響いていた。



──そうだ、今は夏だ。



忘れかけていた季節感を思い出すように
大きく息を吸って、吐く。




「汐月、はい荷物」


「あ、どうも」



茶色いスクールバッグを受け取った。
本当に学生なのかと疑うほどそれは軽い。




「汐月」




そっと、頬に触れられる。

いつも温もりをくれた大きな手。



離れてほしくないのに、手は離れていく。



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