しづき


そして汐月はどうしようもなく優しいから、
最後まで何も聞いてはこなかった。


きっと、すべてを悟っているうえで


知らないふりをしてくれたんだ。



汐月…すきだよ汐月。



「愛してる」



やっぱり心配だよ。


君に傷ついてほしくないよ。



このぼくが隣で守ってあげたい。


守って、あげたかった。



「しづき…しづきしづき…」



涙が滲む。


目頭を押さえた指に嵌るペアリングが雫で光って、皮肉なくらい綺麗な朝日を映していた。


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