しづき


「白…ごめんなさい」


「うん?」



鎖骨から唇を離し、私は静かに言った。



自分でもよくわかっていない「ごめんなさい」



なにも悪いことはしていない。



だけども、なぜか言いたくなった。



「とりあえずごめんなさい…。なにも聞かず、言葉だけ受け取って…ほしいです」


「ふふ、わかったよ」



曖昧な私に笑ってくれる優しい誘拐犯。



「それと…ありがとう」


「なーに?今度はお礼?」



白の指が私の髪をやわく梳く。



愛おしそうに上へ下へと伝う指。




優しくしてくれたこと
傷に触れなかったこと



不覚にも響いてしまったそれを、一から十まで言う気はないけど。



ありがとうだけは伝えるよ。


< 79 / 312 >

この作品をシェア

pagetop