しづき
湧いて出た、えもいえない感情を誤魔化すように、白の胸板に顔をうずめる。
「え?汐月?なになに?かわいい、まって、え?」
「……」
「おかしーな。ぼく、汐月に近づいちゃだめなハズなんだけど」
ほんのり意地の悪いトーン。
「そ、それはもう無効になりました」
「へー。ずいぶん気まぐれさんだね。だめって言えば急に噛み付いてきたりして。まるで猫ちゃんみたい」
「もう、言わないで…ひゃっ」
反転する視界。
押し倒された私の世界を覆うのは、美しい白の姿だけだった。
「ぼくの、かわいい猫ちゃん」
丸見えの鎖骨には、私の歯型がくっきりと付いていた、
そしてそこから流れる真っ赤な線が1本2本。
ひどく艶っぽくて、鼓動が大きく跳ねた。