イノセント*ハレーション
あたしはフロアマップを手に取ると、エスカレーターへと向かった。

鶴乃ちゃんと湧水くんにはそれぞれに見たいものを先に見てきてもらって、後から合流することになった。

あたしはエレベーターの行列の合間をぬってそそくさと5階フロアへと駆け上った。


「はぁはぁ...雨谷、さすがに急ぎすぎじゃ...」

「あのねー君、あたしのこと考えてる?あたしだって見たいものあんだから。君の用事をとっとと済ませてあたしもショッピングすんの」

「何怒ってんだよ」

「怒ってない」

「ってか、雨谷が感情的になるの、なんか新鮮。今までは達観してて雲の上の人みたいな感じだったのに、ますます話しやすくなった。それは、まぁ...良かった」

「...いみふ」


口を尖らせて前をずんずん歩いていくと、腕を組んだカップルと擦れ違った。

それもかなりの数、だ。

クリスマス前で浮かれているのが目に見えて分かる。

リア充の気持ちなどこれっぽっちも分からないから、あたしは内心拗ねて余計に大股早足で歩いた。

そうするとあまり嫌なものが視界に入らずに目的地に辿り着くことが出来た。


「よし。じゃあ、ここ見てみよう」

「あっ、はい」


まるで先輩と後輩のようなやり取りを繰り返した。

全てあたしの主観でしかないのだけれど、この従順であたしより20センチも背の高い後輩くんは、一言一句聞き逃すまいと言った表情であたしの話を真剣に聞いていた。

話を真に受けすぎて、選ぶのに何度もA店とB店を行き来してるもんだから、あたしは最終的にこう言った。


「日葵に似合うもの、似合うもの...ってこんだけ捜して迷ってさ、それだけでもう十分なんだよ。弓木くんが日葵のことを考えて真剣に選んだものなら、なんだって喜んでくれるよ。君の近い将来のカノジョはそういう子でしょ?」

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