イノセント*ハレーション
#6 真夏、孤独、違和感
「えー、では雨谷さんは泉英(せんえい)女短の家政学部のビジネスコース専攻が第一希望ということでよろしいですか?」

「はい」

「泉英なら指定校推薦枠もあるし、今の雨谷さんの成績なら十分に合格出来ると思うわ。この調子で勉強頑張ってね。あ、そうそう、ここのオープンキャンパスなんだけど...」


ミーンミンミン...。

ミーンミンミン...。

ジー...ジー...。


蝉の鳴き声がうるさい。

ってか、早く終わんないかな。

面談とか時間の無駄だから、早く帰りたい。

そんなことを思いながらあたしは先生が熱心に話すのを悪びれもなく無視して窓の外を見ていた。

山積みになった資料からあたしの進学予定の短大のパンフを探しているから、幸いにも先生には気づかれていない。

汗を滝のように流しながらグランドを何周も走る人もいれば、

ボールを追いかけ、縦横無尽にコートを駆ける人もいる。

草木が生ぬるい風に吹かれてそよそよと揺れている。

その向こうにプールが見える。

デッキブラシでゴシゴシとプールサイドを掃除する女子マネージャーの姿が目に飛び込んできて、ふいに懐かしくなる。

去年の夏は呑気に掃除してたなぁと思い出す。

そして、あたしは...飛び込んだりもしたんだよね。

9月下旬のプールは思ったよりも冷たくて思考が冴え渡るどころか停止してしまって、溢れるだけ溢れて収拾つかなくなって...。

それから色んなことがあったけれど、気がついたら、冬も春も越えてまた夏を迎えていた。

< 147 / 220 >

この作品をシェア

pagetop