イノセント*ハレーション
しかし、あたしが教室に到着した頃には黒板は綺麗になり、人っ子1人いなかった。

あたしは自分の席の周りから順に探した。

どう見ても空のごみ箱の中も、

掃除用具入れも、

教卓の下も、

教室中まるごと探してもそれはなかった。


「嘘...」


最後の最後にやらかしてしまった。

幸いにも自分の名前は表紙にも中にも書いていないから、確実に特定されることはない。

だけど...失った。

最後に書いたのは昨日の夜寝る前。

今日のことも書いて完結だったはずなのに。

...いや、違う。

今日で終わりにしないようにと、未来の日記を書いたんだ。

確か日付は2年後のあたしの誕生日...。

20歳になる記念のその日に起こってほしいことを妄想して書いたんだ。

どうか...

どうか、それが

現実になりませんように。

それだけを祈った。

誰も戸締まりをしていかなかった教室の窓の外からは爽やかな風が吹き、あたしの髪を優しく撫でた。

あたしの3年間はこうして幕を閉じた。


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20×2年3月9日

天気晴れ

卒業式があった。

泣かなかったのまでは良かった。

それなのに、あたしは初代日記帳を失くしてしまった。

お願いします。

あたしの記憶はここに残ってるから、

記録は消してください。

間違って持って帰った方、

捨てて下さい。

どうか、誰にも見られていませんように。
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