イノセント*ハレーション
そして、その日は遅れることなくやって来た。

8月5日午後19時。

周囲の歓声を搔き消す大きな音が耳を貫く。


ーーヒュ~~ドンッ!

ーーヒュ~~ドドンッ!


「あぁ、綺麗だな...」


ため息と共に、思ったことがそのまま言葉になった。

そして、思い出した。


美しいものを見た時、

何かにすごく感動した時、

嬉しい出来事があった時、

真っ先に誰の顔が浮かぶ?

一瞬一秒で消えてしまうことでも、

とりとめのないことでも、

一から十まで全部教えたくなる人。

それが、"大切な人"なんだよ、って。


それを教えてくれたのは、あたしにとってかけがえのない存在の1人の絆奈だった。

絆奈はいつもあたしに大切なことを教えてくれた。


今さら思い出したって仕方ないのに、

やっぱり現実になんてならないのに、

あの日伝えられなかった言葉も、

飲み込んでしまった想いも、

あたしはやっぱりこの胸にしまっておけない。


あたしは、ね...


色とりどりの大輪の花が咲き誇る夜空を見上げる。

肺がいっぱいになるまで酸素を取り込む。

そして、花火より眩しい月に向かい叫ぶ。


「あたし、雨谷凪夏は...っ!」


キミに...

会いたい。

キミに、会いたい。

キミに会いたい。


「会い...たい...」


最後の方は掠れてしまった。

届かない。

いつだって、届かない。

一生叶わない。

それでも、ここに来たかった。

待っていたかった。

あの日思い描いた奇跡と、

想いの果てのキミを。

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