イノセント*ハレーション
パンッ、パンッ...と快い音が聞こえる。

おそらく朝練をしている人が放っている音。

ひたすらに真っ直ぐで迷いがない音。

そして、ズバッと刺さる音が続く。

そんな音をBGMにしながら、あたしはせっせと草むしりをする。

夏休み中1度も学校に来てむしらなかったから、だいぶ草が伸びている。

たしか、教頭先生がエサはあげてくれていたと思う。

5羽全員生き延びていてくれて良かった。

ということで、記念に1枚。


ーーカシャ。


スマホの音にびっくりしたのか、ピョン吉がピョンピョン跳ねて檻の端っこにあるトンネルの中へと入っていってしまった。


「ピョン吉、ごめんよー」


あたしはお詫びにと部屋の中をほうきではいてあげた。

牧草は散らかり放題、糞もあっちこっちに広がっていて誰もやりたがらないだろうなと改めて思った。

あたしはうさぎが好きだし、隠れ家にもさせてもらっちゃってるから喜んで掃除をやらせてもらう。

あたしが夢中で掃除をしていると、背後でギーッと不気味な音が鳴った。

といっても、このうさぎ小屋の出入口であるサビサビの扉の開閉音であるのは、見なくても分かる。

つまり、インベーダーの登場というわけ。

その人物も予想は出来ている。

あたしがほうきを元の位置に戻し、ふっと振り返ると、予想よりは焼けていないけど、相変わらず袴姿が板に着きすぎて、江戸の侍に嫉妬されそうな男子がいた。


「新学期早々うさぎの世話かよ」

「そっちこそ、朝練かよ」

「悪い?」

「むしろ良いことだと思う。朝からお疲れ様です」

「んだよ、それ。2週間会ってないのに相変わらず雨谷は雨谷なんだな」

「人はそんな簡単には変わんないよ」

「まー、な」

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