イノセント*ハレーション
真昼くんはまるでずっと前からこの学校の生徒で2年1組のクラスメートだったかのように過ごしていた。

常に彼の周りには人がいて、いつもニコニコと優しい微笑みを称える彼は、誰がどう見ても王子様そのものだった。

そんな彼につけられたあだ名には、もちろん"王子"がつく。


「では、これから体育祭の参加競技を決めます」


新学期が始まって4日目の6時間目。

学級委員長の鶴乃さんが皆の前に立って話を進める。

今年は3年に1回の文化祭が開かれない年だから、その代わりの行事である体育祭が開催される。

うちのクラスは運動部が多いこともあって今から士気が高まっている。

あと、士気を高める要素を持つものがあるとするならば...

やはり彼だと思う。


「ねぇ、まーくん王子は何に出るの?」

「ちょっと~、沙耶。隣の席だからって抜け駆けしないでよ!」


まーくん王子と呼ばれた彼は言わずもがな湧水くんのこと。

日本の高校の伝統行事とも言える体育祭に、夜空の星をまるごと吸い込んだみたいに目をキラキラと輝かせている。


「皆さん静かにして下さい!黒板に競技名を書いたので、まずは自分がやりたいところに名前を書いて下さい。偏ったら公平にじゃんけんで決めます。...じゃあ、廊下側から」


鶴乃さんの、まさに鶴の一声で水面下の争いが始まった。

あたしは平和主義だし、特にやりたい競技もないから、皆が書き終わった後余っているところに行った。

湧水くんの席は窓側の最後尾、つまりあたしの後ろで、最後の最後まで運命が分からないというのに、無意識の引力が作用したのか湧水くんが名前を書いたところには人が殺到していた。

ということでじゃんけん大会が繰り広げられることに。

あたしは自分の真後ろで騒ぎ立てられていることに嫌気が差しながらも聞こえないふりを続け、なんとかその場を凌いだ。

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