【短】心臓が何度も壊されるのに、まだ好きで。
好きだと思った瞬間に…、其処は地獄と化した。
燎原の火。
燃え広がり、チリチリとこの身を焦がす。
大罪を犯している、と知りながらも止められない情欲。
「アイシテルよ…」
「……」
私は、それに応えはしない。
一時の戯れなんだと気付いた時から。
『森江、さんかしら?』
電話口から聞こえる冷え切った声。
昔から知っているようで、知らない…冷めた声。
『いつも、主人がお世話になっております』
高貴な喋り方。
そして、上から目線のキツい音色を含んだその声は、密かに憐れみを差し込んでくる。
『少しお話したい事がありまして。…あぁ、それからこれは主人にはどうかご内密に…。女同士腹を割ってお話し合えたらと』
…私はあくまでも主人の"正妻"です…。
そんな想いが付いて回っているような……寂しさの欠片が映る声。
私は、一呼吸置いてから、にこやかにこう応えた。
「はじめまして。いつも旦那さんを"お世話"してます。話をしたいなら彼の前で堂々と話した方がいいのでは?」
その途端、受話器の向こう側でキッと息を飲むのが聞こえた。
「貴女のせいで、私の生活はボロボロになったのよ?そんな態度を取るならば…出る所に出ましょうか」
「別に?構いませんけど?でも、そうしたからって、彼の気持ちは奥様には戻りませんよ?きっと、もっと放れていくでしょうね」
「…っ」
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