【短】心臓が何度も壊されるのに、まだ好きで。
こんな風になると、最初から分かっていたなら、彼の手を掴んだりはしなかった。
小指を絡ませ、肌を重ねる事なんて…。


シャワーを浴びてる間に鳴った、彼のスマホを見て全てを悟った私は、その日からなるべく彼の相手をしないようにしてきたというのに、まるで泥棒ネコみたいな言われ方は理不尽極まりない。


ねぇ、10年も前から結婚してる人がいるなんて、もう小学生になる子供がいるなんて、知らなかった。


隠してたのは、そっちじゃない。
騙したのは、そっちじゃない。



だから…。



私は、悪くない。


慰謝料?

そんなもん、払うわけないじゃない。

ばかなの?


あぁ、ばかだから、そんなことも分からないのか…。



『春花、今夜空いてる?』

「無理」

『どうして?』

「奥様からお怒りの連絡があった」

『え…?』



まさか、本当にバレてないとでも思っていたのか、この男は。
頻繁に、密会…を重ねて、あれだけ私の匂いをマーキングさせてやっていたというのに。

これじゃあ、奥様も可哀想だな。


と、そう思ってから、いやいやと頭を振った。


この場合、可哀想なのは私だろ。

こんなにも好きになった男が、とうの昔に他の人のモノだったんだから。

ズキズキと痛む、胃と頭。
最近では吐き気もする。

まさかと思って買った検査薬では陰性だったから、ホッとした。

大丈夫、ただの生理現象。

そう思い込ませて、私は毅然とした態度を崩さない。

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