愛が痺れた

「はい、わたしも健太さんと結婚したい」
「……っ、……っ、……!」

 言葉を待たずに返事をすると、彼は目を見開き、口を開けて、心の底から驚いた、という顔をした。

「あれ、違いました?」
「ななな、なんで分かったの……!? ぼ、僕が、恰好良く決めようと……!」
「もう、すうはあ、はすはす、二十分もしている時点でばれると思いますけど。あいてて……」

 ようやく足を崩して、痺れた足を擦る。普段正座なんてしないため、二十分も折りたたんでいた足は、自分のものとは思えないくらい痺れてしまった。

「でも、健太さんは、わたしでいいんですか?」

 言うと彼は拳を握って「唯がいいの!」と大声で主張する。

「仕事もあるしなかなか思うように会えないけど、結婚して一緒に暮らしたら、ちゃんと毎日会えるから! 今の俺の身体の六割くらいは、唯が作る料理でできてるから! それを七割八割九割と上げていきたい! 毎日唯の料理が食べたい! そう思えた、唯一のひとだから!」

 さっきまでの「すう」「はあ」「はす」「はす」は何処へやら。主張の勢いのままわたしの手を握り、健太さんはそんなプロポーズをしてくれた。

 なんて嬉しいプロポーズなのだろうと思った。
 プロの料理人である彼が。料理を食べたみんなを笑顔にする彼が。わたしの料理を食べたいだなんて。わたしの料理で身体を作っていきたいだなんて。こんな誉れは他にない。

 足の痺れ以上に、心が痺れて仕方ない。

「ありがとう。うれしい」

 胸がいっぱいで、そんな簡単な返事しかできないのが申し訳ないけれど。大好きな彼と、ずっと一緒にいられるという幸せを。一日三食、一年千九十五食、彼と一緒に食べられるという喜びを。言葉になんてできない。心が痺れる、なんて初めての経験で、どうしたらいいのか分からない。

 満面の笑みで頬を染める彼に抱きつこうとしたけれど、足が痺れているせいでよろけて、胸に激突してしまった。
 そんなわたしを健太さんは、ここぞとばかりにぎゅううと抱きしめる。わたしも、よろけて傾いた姿勢のまま、彼の背中に腕を回した。

 体勢はきついし、心も足も痺れているけれど。今はただ、彼の腕の中にいたかった。これが今のわたしに出来得る、愛情と感謝の証明だと思った。



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