愛が痺れた
しばらくそうやって抱き合いながら、先のことを考えた。
「……結婚するなら、引っ越さないとですね」
「ん。僕の部屋もちょっと狭いから、ふたりで暮らせる部屋、探しに行こうか」
「そうですね……」
築三十年、木造二階建てのアパートには、大学時代から住んでいる。
通っている大学が近かったし、バス停もすぐそこ。駅までもそれほど遠くない。近くにはスーパーもコンビニも郵便局もあるし、住宅街にあるから騒がしくもない。
大学を卒業して、就職してもここに住み続けていたのは、ここが気に入っていたからだ。他の住人たちもそうだと思う。実際、郵便受けの前や廊下や近所で会う顔ぶれは、もう何年も変わっていない。
そんな場所を離れるというのは、少し寂しかったりする。
それでもわたしは、この人と一緒に暮らすため、ここを出て行く。新しい場所で、新しい生活を始める。
わたしが新しい生活を始めた頃、この部屋にはどんなひとが住むのだろう。
日々変わっていく未来に思いを馳せながら、静かに目を閉じた。
(了)