本当は
 あっけなかった。

 意識がある美郁と言葉を交わしたのは、あれっきりだった。

 美郁は眠ったまま、安らかに逝ってしまった。
 拡の号泣が部屋に響き渡った。
 それを宥めようともせず、周りの大人は泣かせた。

 ただ
 葬儀会場では、拡は涙一筋流すこともなく、俯いて静かにしていた。
 何を考えているのだろうか。
 幼くして母と別れた息子。美郁も幼くして、自分の両親と別れていた。

 「私ね、、、こうやって自分の子供を抱っこするのが夢だったの。。。」

 そう言って、生まれたばかりの拡を愛おしげに抱いて、その二人を俺が抱きしめるというポーズ。当時、恥ずかしくてできない、、、と言った俺に一生に一度のお願いだからと、珍しく食い下がった美郁。根負けをして、お願いされたポーズをしたことがあったが、思いのほか、二人の体温が心地よく、柄にもなく、家族の幸せを思った俺を思い出した。

 美郁は愛されたかった。
 愛したかった。

 二人のいろいろなことが思い出され、込み上げるものを我慢できずに、会場を抜け出して、裏手の人がいないところまで来た。
 涙を拭っていると、、、

 「おとうさん。。。」

 泣いている俺を心配そうに見て、小さな手で俺のズボンをしっかりと掴んでいる拡がいた。

 「おとうさん、、、、」

 泣いている顔を見せまいと、俺はハンカチで乱暴に涙を拭った。

 「泣いていいんだよ。。。
 ママが、悲しかったら泣いていいんだよって、、、おとうさんもママがいなくなって、悲しいでしょ。
 泣いていいよ。。。
 僕、おじさんが本当はおとうさんって知っているから。。。」

 こんなに幼いのに。
 帰国して初めて、言葉を交わしたのに。
 拡は俺をおとうさんと、言ってくれた。

 美郁、どんな魔法を使ったのか?

 俺は、小さな身体の息子を抱きしめて、泣いた。
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