本当は

 央さんと私は、お互いの親族の勧めで、お見合い結婚をした。
 央さんは、仕事も容姿も完璧で、お見合いなどせずとも、結婚してほしい女の人が大勢いるだろうに、と思ったのが、第一印象だった。
 

 私自身は華やかさもなく、地味だ。自分の容姿はよくわかっている。仕事は、学生の頃からの出版社でのアルバイトが、そのまま幸運なことに卒業後の仕事となった。
 編集局で鍛え上げられ、作家の先生との丁々発止に鍛え上げられ、一端の編集者となっていると自負するが、本当は自分で文を書く、文筆業に憧れていた。

 結婚するより、ものを書く。
 仲間に内緒で応募していた小説は、まったく日の目を見ず、自分の才能のなさに早く見切りをつけなければと思いながらも、思いきれずに鬱々としていた頃の、不毛な恋愛。

 結婚に対する憧れもなくし、恋愛にも期待をしていなかった頃のお見合いで、出会った央さん。
 彼の中に見た、少し物事を斜めに見がちな自分と、似ているところに惹かれた。
 彼は、本当に無口な人なのだが、央さんと一緒に過ごす穏やかな時間に、私は居心地の良さを感じていた。
 
 一目惚れでも、熱烈な恋愛関係に陥った訳でも何でもないけど、央さんと一緒になりたいと、私は思ったのだ。
 央さんが私をどう思ったのか、知らない。
 今、思うに、央さんは周りにせっつかれて面倒になって、その時たまたま目の前に現れた、私と結婚したのかもしれない。
 周りを疎ましく思っているピークに、私と出会っただけかもしれない。

 央さんの妹 礼(あや)ちゃんは、

 『どう見ても、新婚じゃあないわね。もう、7回くらい輪廻転生して夫婦を繰り返してきたんじゃない?
 この落ち着きっぷり。』

 と、私たちを見てこう評したが、本当に、俗にいうラブラブもなければ、イチャイチャもなかった。
 けど、礼ちゃんが驚くほどの気遣いを、央さんは私には示してくれた。
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