本当は
 相手のご主人とは、マンション近くのカフェでお会いした。
 私は、子供を叔父夫婦に預けていて、少し気もそぞろな感じで、相手の粘着質な話を聞いていた。
 きっと、この人は奥さんのことを愛している、なのに裏切られて、悔しいやら、憎たらしいやら、、、でもかと言って、相手に三行半を突きつけることもできない様子だった。

 私は、央さんのことを好きだが、よく考えると、目の前の人のように渦巻く感情で央さんを、見たことがなかったなと、今更のように気づいた。
 このまま央さんの不倫を知らなかったら、私の中で央さんは不倫したことにはならず、平穏に少しずつ私たちは、夫婦らしくなれたかもしれないのに。
などとも思ったりしていた。

 「家内が、30分ほど前にご主人のマンションに入っていきました。
 私たちも、行きましょう。
  奥さん、覚悟はできていますか?」

 「。。。。。」

 私は答える代わりに黙って頷いた。
 あなたの方が、大丈夫でしょうか、と冷静に思える自分が不思議だった。

 私はエントランスのセンサーにキーを翳して、ドアを開けた。
 そこから、夫の部屋の階までエレベーターで上がる。

 「奥様は、合鍵は持っていらっしゃるのでしょうか。」

 「調査会社の報告でも、今日私が見た限りでも、お宅のご主人に解錠してもらっているようですから、持っていないのではないでしょうか。」

 「。。。。。」

 奥さんの身辺調査もされて、外堀を埋めて、今日が決戦の時なのね。
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