大切なあなた
6月某日。

「お疲れさまでした。遠いところをわざわざありがとうございます」

空港の到着ゲートから出てきた影近に歩み寄った。

「久しぶりだね、唯」
「荒川、です」
さすがに人目もあり下の名前で呼ばれるのは困る。

「ああ、そうか。荒川さんね。大学時代を思い出してつい、ごめんごめん」

空港まで迎えに来たのは、私と、高山さんと、担当部署の男性スタッフ数人。
そのままマイクロバスに乗り、街の中心へ向かう。



「お昼は影近さんのリクエストでお弁当を用意しました」
乗り込んで早々テーブルに荷物を広げる。

「わぁ、これって老舗料亭の特注弁用じゃないですか」
「それにこれは、手作りおにぎりですか?」
「ええ、途中つまめればと思って作りました。好きなものをお取りください」

まさか影近のリクエストだと言うわけにもいかず、皆さんどうぞと差し出した。


「影近さん、どうぞ」
高山さんがお弁当とおにぎりを差し出すと、
「ありがとう」
何のためらいもなくおにぎりの方を受け取る影近。

私はその光景を少し離れた席から見ていた。
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