大切なあなた
学生時代、お腹を空かしたと言う影近によくおにぎりを作ってあげた。
通っていた大学は国立大だったから学費はそんなにかからなかったはずだけれど、少しだけコミュ障傾向のある影近はどんなアルバイトも長続きせずいつもお金に不自由していて友人たちみんなでよく奢ったものだ。


「荒川さん、とっても美味しかった。ご馳走様」
「いえ」

結局、影近は私が作ってきたおにぎりしか食べなかった。

「この後大学に行けるんだよね?」
「ええ」

そのためにお昼の時間を削ったからには、スケジュールも抑えて恩師のアポもとってある。

「申し訳ありませんが、記念の写真だけ数枚とらせてもらってその後先生とお会いになる時間をとりますので」
「わかりました」

フーン。
昔は写真を撮られるのが嫌いだったのに。
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