大切なあなた

記憶の片隅

「さあ、入って」
「え?」

タクシーを飛ばし、走ってきた影近の宿泊するホテル。
ベルを鳴らすとすぐにドアが開いた。

「あの、急用って」
何?

部屋は最上階のスウィートルーム。
この辺では結構値の張るお部屋。
眺めだってとってもいいって、手配した私は知っている。
でも、

ギュッ。
いきなり抱きしめたれて、
「唯と話がしたかった」
とか言われても、困ってしまう。

「どうしたのよ、今回の依頼にこんなオプション付けた覚えはないわよ」
できるだけ明るく笑ってみせる。

「俺は、唯に会いたくて帰ってきたんだ」

私だって会いたかったよ。

月がお腹にいるとわかった時も、出産の時も、月のお誕生日のたびに会いたかった。月の顔を見るたびに影近を思い出すんだから。

「影近、おかしいよ。私たちのことはもう過去でしょ?今のあなたには」
社長令嬢の奥様と、かわいいお子さんがいるじゃない。

「それでも唯が」
「ダメ」
私は人差し指を立てて影近の唇を塞いだ。
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