大切なあなた
そう言えば、影近と結ばれたのもこのホテルだった。

今から5年前、社会人3年目の25歳の時。
仕事にも慣れ一人前になった気がしていた私は大きなミスをしてしまい、それを引きずってうつ状態だった。
眠れず、食べれず、最終的に職場で倒れ診断書が出て、休職中に偶然影近と再会した。

「あれ、唯?」
「影近」
顔を見た瞬間涙が溢れた。

楽しかった学生時代。
勉強と音楽のことだけ考えていればよくて、人間のしがらみなんて考える必要もなかった。あのまま時間が止まっていればこんなに苦しむことはなかったのに。
そう思ったら涙が止まらなかった。

「唯、おいで」

私の様子から何かを感じた影近は、抱きかかえるようにしてホテルに連れて行った。
もちろん、私も抵抗することはなかった。
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