大切なあなた
「相変わらずですね」
「あら、駿」
「おはようございます」
「おはよう」

この時間だから誰にも見られてないと思ったのに、油断した。

「早いわね」
「ええ、朝一の会議があって」
「そう」

朝から会議は私も一緒。
じゃなければ、実家の父に子供をお願いして早出なんてしない。

(ライト)は実家ですか?」
「うん」

個人情報の保持がやかましいこの時代、県職員として働く私の家庭事情を知っている人間はそんなに多くない。
今の部署の部長と前の部署の課長、それに今声をかけてきた田上駿(たがみしゅん)。この3人だけ。他の人は私に子供がいるなんて知りもしない。

「来週また日帰りで東京だって?」
「ええ、ここのところ3ヶ月に一度のお約束です」
「日帰りじゃ慌ただしいでしょう、泊ればいいのに」
「嫌ですよ、そんな事すれば仕事が溜まるだけですから」
「まあ、それもそうね」

公務員と言えば硬くて安定していて時間もきっちりってイメージがあるけれど、現実はそんなことない。どれだけ忙しくてもやらないといけない仕事はある訳で、遅れればそれだけ溜まって行く。もちろん最初から手を抜いている人には見合っただけの仕事しか来ないけれど、その分出世もなければ、上司からの評価も低い。
そこを上手にバランスをとればいいと思うんだけれど・・・

「お互い損な性格よね」
「そうですね」
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