大切なあなた
結局、私たちは朝まで話していた。

仕事のこと。
家族のこと。
同級生の近況から、世の中の理不尽まで。
笑ったり、怒ったりしながら、語り合った。

「唯は結婚とかしないのかよ」
「そのうちいい人が現れればね」

「仕事ばかりしていると、また体を壊すぞ」
「仕事のストレスで泣きごと言った人がよく言うわ」

「仕事のことばかりじゃない」
「・・・」

影近は、泣きながら『苦しいんだ』と言った。
周りの人から見れば、才能に恵まれ、何不自由なく成功者としての人生を歩んでいるように見える影近。
それでも本人しかわからない苦労があるんだろうと思う。
詳細を聞こうとは思わないけれど、その苦しみは伝わってきて抱きしめてしまった。

「ごめんな、唯」
「本当にね」
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