大切なあなた
「僕たち夫婦は意図せずとはいえ周りの人を傷つけてきました。そのことを言い訳する気はありません。でも、それでも僕は妻を愛してしまった」
「駿」

こんな真昼間から、この人は何を言い出すんだろうと思わなくはない。
恥ずかしくないのかって突っ込みたくもある。
でも、駿には駿の思いがあって言っているんだろうと、黙ってうなずいた。


「月のこと、引け目に思うことはないと思います」
「うん」

きっと、もう少しすれば月は自分にだけ父親がいないことを疑問に思うだろう。
その時は『ママが大好きな人との間に月が生まれたんだ』と話そうと思っている。

「いつか、時が来たら、月にも話してください」
「うん、そうね」

その時は『君のパパはこんなに素敵な人なのよ』って話すわ。
それまで私も頑張らないと。

「ああそう言えば、駿、昨日月に会った?」
「ええ」

朝、月からかかってきた電話で、
「今度の運動会、駿兄ちゃんが一緒に走ってくれるって言ったよ」
と言っていた。

「月の運動会に行くって約束した?」
「ええ」

ええって、
「大丈夫なの?」
奥さんいい気はしないと思うけれど。

「月と約束しましたから」

「ありがとう」

月を産んでから私は少し図々しくなった。
月の為なら遠慮はしないし、頭だって下げる。それだけの覚悟がなければシングルマザーなんてやっていられない。
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