大切なあなた
県内で一番大きなイベントホールを貸し切って行われた音楽フェス。
子供たちの演奏があったり、影近との交流の時間があったりと内容は多岐にわたっている。
その一つ一つに嫌な顔もせずに対応する影近。
時々笑顔まで見せる彼に、『あんな人だったっけ』と意外な気持ちで見ていた。

控えめで、寡黙で、不器用で、音楽のこと以外は何も興味がないように見えた影近が、人並みに笑って、自分から話しかけている姿が不思議だった。

「学生時代から人気がありましたね」
人々の輪の中心で輝いている影近を見て、駿がつぶやいた。

「そうね、ファンは多かったわね」

元々背が高くて彫りの深い日本人離れした顔をしていたし、その神秘的な雰囲気に惹かれる女の子は多かった。

「主任もその一人ですか?」
「・・・そうね」

そうかもしれない。
決して見た目で好きになったわけではなかったけれど、確かに好きだった。
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