大切なあなた
「では、ホテルは駅に近くて付近にコンビニがあるところ。追加で必要な物があれば、私の方で届けさせていただく。で、いいですか?」

翌日の午後、影近との打ち合わせで決まったのは簡単な条件。
要は私に「呼んだら来いっ」ってことらしい。
本来なら仕事に私情を挟むんじゃないって怒鳴りつけてやりたいところだけれど、相手が影近ではそうもいかない。

「当日は唯が迎えに来るんだよな?」
「ええ」
不本意ですが。

完全に影近の守り役にされてしまった。
でも仕方ない。今を時めく売れっ子ピアニスト影近を招いてのイベントには人もマスコミも多く来るからPR効果は抜群。
県職員としてそれを無碍にはできない。

「土曜日の朝10時に空港までお迎えに参ります。途中お昼をとっていただいて午後から県知事はじめ経済団体の長との面会、記者会見を予定いたします。翌日は県の音楽フェスが行われる会場で小中学生との交流会。午後はチャリティーコンサートへのゲスト出演をお願いいたします。土曜日の夜と夕方出発までの短い時間はフリーとしておりますので、何かご希望があればおっしゃってください」

きちんとしたスケジュールは送るとして、簡単な流れだけを早口で説明した。

「土曜のお昼は唯が作ったおにぎりでいいよ。どうせ朝は食べないから、車で移動の時間にブランチとしていただく」
「しかし、それでは」
「いいんだ。その代わり大学に寄る時間が欲ししい。お世話になった滝川先生にお目にかかりたいんだ」

滝川先生は軽音サークルの恩師。
確か今年を最後に退官なさるって聞いている。

「わかりました。手配します」
「お願いします」
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