紫陽花
「今日はミスしないと良いなぁ」通勤電車に乗りながら、美咲はTodoリストを確認する。
大手への就職に成功した美咲は毎日電話対応をしたり、データ入力をしたり。残業もあったが充実した日々を過ごしていた。昨日はお客様から怒られてしまい、同僚の人に迷惑をかけてしまったのだ。
今日は同じミスをしないようにしないと。昨日の反省点を考え、対応の仕方に悩んでいると急に肩を叩かれた。驚いて振りかえると
彼氏の拓実が悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべていた。思わず声が出る。「びっくりしたー!!」「はは、ごめんごめん。朝同じ電車に乗るの久しぶりだから驚かせようと思ってさ」
拓実は同期で、営業のエースと呼ばれる程仕事が出来る。その上漫画のような8頭身に中性的な顔立ち、誰にでも優しくコミニュケーション能力が高い。同期でダントツ人気No.1だった拓実がなぜ私を好きになったのか3ヶ月経っても分からない。
拓実に聞いてみたい気もするが、怖くて聞けなかったのだ。今まで私の好きなところは?と聞いた男性には口を揃えて「おっぱい」と言われてきた。
美咲は胸は大きかった。だか、いわゆるぽっちゃりなのだ。スタイルがいいかと言われれば悪い部類だろう。どうやらぽっちゃり好きにはウケが良いようで声を掛けられる事は多かった。でもタイプの人から好かれる事は無い。好きなタイプは真面目でクールな人だ。例えば村上部長のような…
「美咲??大丈夫か?」と拓実が目の前で手を振ってきた。「ううん、大丈夫だよ。ぼーっとしちゃった」憧れの人の事を考えてたなんて彼氏には言えない。
拓実は「ははーん、俺の格好良さに見惚れちゃった??」といつものようにおどけてきた。美咲はとっさに「ごめん、違う」と答えてしまった。拓実は一瞬悲しそうな顔をしたがいつもの顔にすぐ戻り「ほんと美咲は冷たいよな〜美咲だけだよ俺の事チヤホヤしないの…俺同期だけじゃなくて先輩達みんなにカッコいいって言われてるんだけどな〜」
知っているけど、、嫉妬して欲しいのは分かっていたが面倒なのでスルーした。「ほら、もう着くよ!」「はいはい」。駅からすぐの職場は、今時のオシャレなガラス張りのビルだ。
歩きながら拓実が急に「ねぇ、今日泊まりに行ってもいい?」と真顔で訊ねてきた。付き合って3ヶ月、美咲は拓実を家に泊めた事もなければ入れた事さえない。それは身体目的なのか確かめたかったからだ。半年は身体を許さないと心に決めていた。「だめだよ!掃除してないもん!」「またかよ…俺、そろそろ我慢出来ないんだけど」言いながら身体をくっ付けて甘えて来ようとする。「やめてよ!こんな所で」美咲が距離を取ろうと逃げようとすると、後ろから「こんな所で何をやってもいるんだ。」と低い声が聞こえた。
まさか、この声は…
美咲が恐る恐る振り返り顔を確認する前に拓実が「あ、村上部長!おはようございます!」とやや緊張感ある声で挨拶した。村上部長は仕事は出来るが、社内ではかなりクールで怖いことで有名だ。
「会社の評判が下がるだろう」と呆れているような冷めた目でこちらを見ていた。さすがの拓実も焦ったようで「すいません!」と勢いよく部長に頭を下げてから、「じゃあ、先に行くわ!」と美咲に声をかけるとそそくさと逃げていってしまった。薄情で調子いいやつ。
その様子を見ていた部長が「…アイツと付き合っているのか」と聞いてきた。
付き合った翌日拓実はみんなに自慢げに言いふらしていた。そのせいで社内の女性陣から毎日のように「なんで美咲ちゃんなの」という顔でじろじろ見られる。最悪だ。部長も付き合っている事は絶対知っているはずなのになぜか確認してきた。
違いますと言いたくなる気持ちを無理矢理抑え小さな声で「そうなんです…でも」「でも?」部長が少し不思議そうに聞いてきた。思わず本音が出そうになった。
でも、本当に好きなのは貴方なんです。
そんな事言えるわけがない。常務の左薬指にはキラリと光る指輪が付いてるのだから。 咄嗟に「でも…上手くいってないんですよ。なんで私なんて選んだんでしょうね。仕事のミスも多いし、ぼーっとしてるし、ブスだし」いつも同僚に言うような自虐ネタを言って笑わせようと試みた。しかし部長は笑うどころか少し困ったような顔をして「…君はとても頑張っている。いつも早く出社して色々準備してくれているだろう。顔も魅力的だと思うが」といつもより少しだけ早口で言った。
み、魅力的!?
鏡を見なくても耳まで真っ赤になっているのが分かる。顔が熱い。「顔が赤いが大丈夫か」「大丈夫です。村上部長のせいです。失礼します。」捨て台詞のように言い放つと美咲は小走りで逃げた。顔が熱い。鏡を見なくても耳まで真っ赤になっているのが分かる。入り口の自動ドアに飛び込み階段を駆け上った。自分のデスクに座って呼吸を整える。息が苦しい。走ったせいか、久しぶりに部長と話せて仕事を認めて貰えて、顔まで褒めてもらえたせいか分からない。とにかく心臓がうるさい。
村上部長の顔が好きだ。入社の面接の時にあまりの格好良さにおどろいた。筋トレしてるであろうしっかりとした身体、切長の一重に鼻筋の通った鼻、薄い唇。いつも無表情で何を考えているのか分からないのに、仕事でお客様と話しているときは柔らかい表情だった。美咲はふとした時に村上部長の顔を見ていた。PCで資料を作っている時の顔。お弁当を食べている時の顔。毎日部長は手作りのお弁当を食べている。前にチラッと見た事があるが、彩りが良く栄養バランスも考えられている素敵なお弁当だった。奥さんはとても料理上手なのだろう。噂では近くの百貨店の化粧品売り場で働いていると聞いた。
胸のドキドキは収まり、黒い感情が湧いてきた。化粧品売り場で働いていると言う事は、私なんかとは違う華やかな美人なのだろう。
美人なうえに料理上手なんて勝ち目は無い。いや、なんでわたしは奥さんに勝とうとしているのだ。おこがましい。わたしなんかが部長と釣り合う訳ない。社内1美人といわれている先輩が部長に告白したところ冷たくあしらわれたらしい。わたしには奥さんがいる人に告白する勇気なんて無い。ただ遠くから見つめて、少しでも部長の仕事の負担が減るように努力することしかできない。考えるのやめて早く仕事に集中しよう。
スマホの通知が来た。拓実からだ。
〈さっきは色々ごめんな。でも、もう付き合って3ヶ月だろ?心の準備が必要なのは分かってるけど、もう我慢できない。今日美咲の家に行きたい。だめかなぁ?〉
拓実は優しいけど、私の事は何も分かってくれない。
返信する気力も無かったので無視してしまった。
大手への就職に成功した美咲は毎日電話対応をしたり、データ入力をしたり。残業もあったが充実した日々を過ごしていた。昨日はお客様から怒られてしまい、同僚の人に迷惑をかけてしまったのだ。
今日は同じミスをしないようにしないと。昨日の反省点を考え、対応の仕方に悩んでいると急に肩を叩かれた。驚いて振りかえると
彼氏の拓実が悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべていた。思わず声が出る。「びっくりしたー!!」「はは、ごめんごめん。朝同じ電車に乗るの久しぶりだから驚かせようと思ってさ」
拓実は同期で、営業のエースと呼ばれる程仕事が出来る。その上漫画のような8頭身に中性的な顔立ち、誰にでも優しくコミニュケーション能力が高い。同期でダントツ人気No.1だった拓実がなぜ私を好きになったのか3ヶ月経っても分からない。
拓実に聞いてみたい気もするが、怖くて聞けなかったのだ。今まで私の好きなところは?と聞いた男性には口を揃えて「おっぱい」と言われてきた。
美咲は胸は大きかった。だか、いわゆるぽっちゃりなのだ。スタイルがいいかと言われれば悪い部類だろう。どうやらぽっちゃり好きにはウケが良いようで声を掛けられる事は多かった。でもタイプの人から好かれる事は無い。好きなタイプは真面目でクールな人だ。例えば村上部長のような…
「美咲??大丈夫か?」と拓実が目の前で手を振ってきた。「ううん、大丈夫だよ。ぼーっとしちゃった」憧れの人の事を考えてたなんて彼氏には言えない。
拓実は「ははーん、俺の格好良さに見惚れちゃった??」といつものようにおどけてきた。美咲はとっさに「ごめん、違う」と答えてしまった。拓実は一瞬悲しそうな顔をしたがいつもの顔にすぐ戻り「ほんと美咲は冷たいよな〜美咲だけだよ俺の事チヤホヤしないの…俺同期だけじゃなくて先輩達みんなにカッコいいって言われてるんだけどな〜」
知っているけど、、嫉妬して欲しいのは分かっていたが面倒なのでスルーした。「ほら、もう着くよ!」「はいはい」。駅からすぐの職場は、今時のオシャレなガラス張りのビルだ。
歩きながら拓実が急に「ねぇ、今日泊まりに行ってもいい?」と真顔で訊ねてきた。付き合って3ヶ月、美咲は拓実を家に泊めた事もなければ入れた事さえない。それは身体目的なのか確かめたかったからだ。半年は身体を許さないと心に決めていた。「だめだよ!掃除してないもん!」「またかよ…俺、そろそろ我慢出来ないんだけど」言いながら身体をくっ付けて甘えて来ようとする。「やめてよ!こんな所で」美咲が距離を取ろうと逃げようとすると、後ろから「こんな所で何をやってもいるんだ。」と低い声が聞こえた。
まさか、この声は…
美咲が恐る恐る振り返り顔を確認する前に拓実が「あ、村上部長!おはようございます!」とやや緊張感ある声で挨拶した。村上部長は仕事は出来るが、社内ではかなりクールで怖いことで有名だ。
「会社の評判が下がるだろう」と呆れているような冷めた目でこちらを見ていた。さすがの拓実も焦ったようで「すいません!」と勢いよく部長に頭を下げてから、「じゃあ、先に行くわ!」と美咲に声をかけるとそそくさと逃げていってしまった。薄情で調子いいやつ。
その様子を見ていた部長が「…アイツと付き合っているのか」と聞いてきた。
付き合った翌日拓実はみんなに自慢げに言いふらしていた。そのせいで社内の女性陣から毎日のように「なんで美咲ちゃんなの」という顔でじろじろ見られる。最悪だ。部長も付き合っている事は絶対知っているはずなのになぜか確認してきた。
違いますと言いたくなる気持ちを無理矢理抑え小さな声で「そうなんです…でも」「でも?」部長が少し不思議そうに聞いてきた。思わず本音が出そうになった。
でも、本当に好きなのは貴方なんです。
そんな事言えるわけがない。常務の左薬指にはキラリと光る指輪が付いてるのだから。 咄嗟に「でも…上手くいってないんですよ。なんで私なんて選んだんでしょうね。仕事のミスも多いし、ぼーっとしてるし、ブスだし」いつも同僚に言うような自虐ネタを言って笑わせようと試みた。しかし部長は笑うどころか少し困ったような顔をして「…君はとても頑張っている。いつも早く出社して色々準備してくれているだろう。顔も魅力的だと思うが」といつもより少しだけ早口で言った。
み、魅力的!?
鏡を見なくても耳まで真っ赤になっているのが分かる。顔が熱い。「顔が赤いが大丈夫か」「大丈夫です。村上部長のせいです。失礼します。」捨て台詞のように言い放つと美咲は小走りで逃げた。顔が熱い。鏡を見なくても耳まで真っ赤になっているのが分かる。入り口の自動ドアに飛び込み階段を駆け上った。自分のデスクに座って呼吸を整える。息が苦しい。走ったせいか、久しぶりに部長と話せて仕事を認めて貰えて、顔まで褒めてもらえたせいか分からない。とにかく心臓がうるさい。
村上部長の顔が好きだ。入社の面接の時にあまりの格好良さにおどろいた。筋トレしてるであろうしっかりとした身体、切長の一重に鼻筋の通った鼻、薄い唇。いつも無表情で何を考えているのか分からないのに、仕事でお客様と話しているときは柔らかい表情だった。美咲はふとした時に村上部長の顔を見ていた。PCで資料を作っている時の顔。お弁当を食べている時の顔。毎日部長は手作りのお弁当を食べている。前にチラッと見た事があるが、彩りが良く栄養バランスも考えられている素敵なお弁当だった。奥さんはとても料理上手なのだろう。噂では近くの百貨店の化粧品売り場で働いていると聞いた。
胸のドキドキは収まり、黒い感情が湧いてきた。化粧品売り場で働いていると言う事は、私なんかとは違う華やかな美人なのだろう。
美人なうえに料理上手なんて勝ち目は無い。いや、なんでわたしは奥さんに勝とうとしているのだ。おこがましい。わたしなんかが部長と釣り合う訳ない。社内1美人といわれている先輩が部長に告白したところ冷たくあしらわれたらしい。わたしには奥さんがいる人に告白する勇気なんて無い。ただ遠くから見つめて、少しでも部長の仕事の負担が減るように努力することしかできない。考えるのやめて早く仕事に集中しよう。
スマホの通知が来た。拓実からだ。
〈さっきは色々ごめんな。でも、もう付き合って3ヶ月だろ?心の準備が必要なのは分かってるけど、もう我慢できない。今日美咲の家に行きたい。だめかなぁ?〉
拓実は優しいけど、私の事は何も分かってくれない。
返信する気力も無かったので無視してしまった。