明日、きっと別れを告げます
「――――しな、仁科」

「は、はいっ」

「どうした?ボーっとして。図面、借りたいんだけど」

「ご、ごめん」

図面管理課で働く私のもとにはいろいろな部署の社員が図面を借りに来る。
特に設計課とは密な関係で、今も同期の宗田くんが図面を借りに来たところ。

そして高野さんも設計課……。

「ねえ、高野主任って……」

「うん?」

「な、なんでもないっ」

宗田くんとは同期でわりと仲がいいから、思わず高野さんのことを聞きそうになってしまった。

高野主任って奥さんいるの?

そんなことを口に出してしまったら、私が高野さんとお付き合いしているのがバレてしまいそうだ。
バレてもいいなんて思っていたけど、もしも本当に高野さんに奥さんがいるのだとしたらバレてはいけないのでは?

「お待たせ。この図面でいいのよね?」

「サンキュ。……仁科?」

「なに?」

「俺はずっと仁科のことが好きだよ」

「え……」

「入社してからずっとだ。だけど他に仁科を幸せにするやつがいて、仁科もそれで幸せならいいかなって思う。幸せなら、な」

「……な、なにそれ」

知らず知らずのうちに心拍数が高くなる。

今、これは宗田くんから告白されたのだろうか。
それとも暗に高野さんとのことを責められているのだろうか。
だとしたら私と高野さんのことは設計課の中ではもう周知の事実になっているのかもしれない。

嫌な汗が流れてくる。
これはもう、高野さんに直接確認せざるを得ないのではないだろうか。

――結婚しているんですか、と。

でもそれを聞くのは怖い。
もしそれが事実ならば、今までのことはすべて嘘になる。
綺麗な思い出がガラガラと音を立てて崩れていく。
私たちが築いてきたものは虚像だったのだと。
否応なく突きつけられる。

誰か教えてほしい。
真実を。

目の前の宗田くんに聞く?
宗田くんなら設計課だしいろいろ情報を持っているのでは。

「あの……」

「うん?」

「な、なんでもない」

「そう?」

宗田くんは不思議そうな顔をし、「じゃあ」と爽やかな笑みをたたえて帰っていった。

呆然とする私を残して。

< 3 / 9 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop