明日、きっと別れを告げます
「――ち、真知、着いたよ」

「あ、うん」

「眠たくなっちゃった?」

「いえ……これ、……落ちてたんだけど」

「え?」

意を決して靴下を拾い上げ、高野さんに突き付ける。
高野さんは一瞬ハッとした顔をしたけれど、すぐに「ああ」と穏やかな表情に戻った。

「ありがとう」

「……そうじゃなくて、高野さん子供がいるの?」

そんなわけないだろう。
勘違いするなよ。

そんな答えを求めていたと思う。
でも、違った。

「いるよ」

あっさりと、そう、なにも悪びれることもなく答えられ、目の前が真っ暗になった。

「……ど、どうして……」

唇が震えて上手く言葉が出てこない。
けれど高野さんは「うーん」と少し考える素振りを見せてから、困ったようにぐぐっと眉を下げる。

「子供がいるっていっても妻とは上手くいってないし、もう離婚する予定なんだ。向こうが渋ってなかなか離婚してくれないだけで、とっくに夫婦生活は破綻しているんだよ」

「破綻……?」

「そうなんだ。俺をATMとしか思ってなくてさ、お金に執着されて困ってる。俺が本当に好きなのは真知だよ。真知に出会った瞬間に運命を感じたんだ。だから安心して」

「……離婚するの?」

「するよ。俺は真知と一緒になりたいから」

ね、と穏やかに微笑まれて、「……うん」としか答えられなかった。

< 8 / 9 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop