婚約者が浮気相手と駆け落ちしました。色々とありましたが幸せなので、今さら戻りたいと言われても困ります。

　水遣りに必要な呪文は三つ。
　「水」「広範囲」「降り注ぐ」だ。
　それを「雨」という呪文に変えることができれば、虫害を防ぐための呪文である「害虫」「防ぐ」「無毒」の三つを加えて、呪文は四つでいい。四つでもまだ多いが、元の六つよりはずっとましだ。
「雨か。そうだな。試してみるか」
　サルジュも同意してくれた。
　こうして、ただひたすら呪文を組み合わせる日々が始まった。
　闇雲に唱えても魔法は成立しない。
　水遣りだけになってしまったり、無毒が発動しなかったりする。
　呪文の順序も重要であり、とても複雑だ。上手く組み合うまで何度も唱えるため、消費する魔力も多い。
　朝からずっと呪文を唱え続け、ふたり揃って魔力不足になって倒れてしまい、ユリウスには叱られた。
　サルジュが魔力不足になるなんて相当のことだと言われ、よくよく聞いてみると、彼は昨日から一晩中、呪文を試していたようだ。