婚約者が浮気相手と駆け落ちしました。色々とありましたが幸せなので、今さら戻りたいと言われても困ります。
 またあの苦労を繰り返すのかと嘆きそうになるが、主からの命令を断れるはずもない。
「期間は……」
「サルジュが卒業するまでだ。心配するな。アリータ侯爵家には断りを入れているし、リリアーネの了承も得ている」
「……そうですか」
 カイドには婚約者がいる。
 アリータ侯爵のひとり娘で、リリアーネという令嬢だ。
 次男のカイドは彼女と結婚して婿入りする予定だった。結婚もそろそろという話だったはずだ。だがこの話を整えてくれたのはアレクシスで、リリアーネは王太子妃であるソフィアの親友だ。
婚約者とは円満な関係を築いていたが、結婚はサルジュが卒業するまで延期になるだろう。それも、彼女が納得しているのなら仕方がない。
「わかりました。それで、いつからですか?」
 学生時代からの付き合いという気安さで、投げやりな態度で返答したカイドを咎めることもなく、アレクシスは嬉しそうに告げる。
「明日からだ。もちろん学園内だけでいい。休日は王城の騎士が護衛する」
 学園内だけでいいのなら、楽なものだ。
 このときのカイドはそう思っていた。
 あとからそう思ったことを後悔するなんて、想像もしていなかった。
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