婚約者が浮気相手と駆け落ちしました。色々とありましたが幸せなので、今さら戻りたいと言われても困ります。
 王城を出たあと、そのまま婚約者のリリアーネに会いに行くことにした。
 彼女も当然事情は知っているだろうが、きちんと自分で説明した方がいいと思ったからだ。先触れの使者を送り、彼女に渡すための小さな花束と町で評判だという焼き菓子を手土産に持って、アリータ侯爵家を訪れる。
 リリアーネはお茶の支度を整えて、カイドを迎えてくれた。
 挨拶を交わしたあと、持参した手土産を渡すと、彼女は嬉しそうにそれを受け取ってくれた。
「ありがとうございます、カイド様」
 温かみのある麦わら色の髪と、優しい色合いの緑色の瞳がカイドを見つめ、優しく微笑んだ。ソフィアのような光り輝く美貌ではないが、穏やかな彼女といると心が安らぐ。
 アレクシスから第四王子サルジュの護衛騎士に命じられたこと。彼が学園を卒業するまで傍で守らなくてはならないことを告げて、結婚が延期になってしまうことを詫びた。
「わたくしなら大丈夫です。アレクシス王太子殿下からもソフィア王太子妃殿下からも事情を伺っておりますし、恐れ多いことに謝罪のお言葉も頂いております」
 そう言って彼女はにこりと笑った。
 どうやら自分よりも先に、この話を聞いていたようだ。
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