婚約者が浮気相手と駆け落ちしました。色々とありましたが幸せなので、今さら戻りたいと言われても困ります。
 それは小柄な容姿も相まって、庇護欲をかきたてられるような姿だ。
 だがユリアンは軽く頷くと、それ以上何も声をかけずに教室を後にした。

 彼女とよく顔を合わせるようになったのは、翌年のこと。
 サルジュがアメリアという令嬢とよく会うようになってからだ。
 アメリアは広大な農地を持つレニア伯爵家の令嬢で、サルジュの欲しがっていた新品種の小麦についての詳細なデータを所有していた。魔法理論にも詳しく、サルジュとはとても気が合うようだ。
 護衛を連れずにひとりで行動することが多かったサルジュも、アメリアに会うときは連れて歩くようになってくれた。
 それには安心したが、困ったことに、物事に集中しすぎると周りが見えなくなるところはふたりともよく似ていた。時間を忘れるほど研究に熱中するふたりを注意しながら、心配が二倍になったようだと溜息をつく。
 そんなアメリアの友人で、ユリウスと同じように熱中しすぎるアメリアを注意してくれたのがマリーエだった。
 サルジュを探して図書室に向かうと、アメリアを探しに来たマリーエが先に来ていて、休憩をしなければ駄目だ、昼食はきちんと食べたほうがいいと注意してくれていた。
「いつも助かっている。すまないな」
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